リーガルボイス-7 遺言書を残す金銭面でのメリット
遺言書作成は弁護士を儲けさせるだけ?
「リーガルボイスー11 遺言書に関する、知っておきたい3つのこと」をご覧になった方の中には、「遺言書を残すメリットは、紛争回避や相続手続の事務作業量の軽減にあるというのは分かった。でもそれは結局、弁護士が儲かるだけで、依頼者は損をするんじゃないか!?」といった感想をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
相続人が1人しかいないケースでは、遺言書を残して弁護士を遺言執行者としても、経済的なメリットは感じられないかもしれません。しかしながら、相続人が1人の場合でも、「お金がかかってもよいから預金の払戻し等の手続を代行してほしい」というニーズは多数あります。遺言書以外に、弁護士に何かを頼みたいというケースは意外と多いのです。
さて本題に入ります。今回は、相続人が複数いて「遺言書が無いケース」と「遺言書が有るケース」について考えてみましょう。
相続財産は1億2,000万円、相続人は子3人、遺言書が無いため話し合いがこじれ、調停期日を10日重ねて、やっと子3人で4,000万円ずつ分け合うことで解決したケースです。
遺言書が無いケース(弁護士に依頼)
遺言書が無く遺産相続で紛争になったケースでは、相続人がそれぞれ弁護士に依頼することになります。その費用を(旧)日本弁護士連合会報酬等基準に当てはめますと、着手金189万円、報酬金378万円、日当5万円×10日=50万円の合計617万円が子1人ずつにかかります。3人の合計は1,851万円となってしまいます。では遺言書が有るケースはどうでしょうか。
遺言書が有るケース(公正証書遺言、弁護士を遺言執行者に指定)
公正証書遺言が有る場合、遺言書作成の弁護士報酬が15万円、遺言書作成の公証人の手数料が約10万円、遺言執行者の報酬が174万円の合計199万円です。その費用は3人の相続人によってまかなわれます(実費や登記手続費用等は除きます)。
遺言書の有る無しでは
上記のケースでいえば、遺言書が有ると無いとでは、1,652万円の差が生じます。また遺言書が無く遺産分割調停となってしまったケースでは、弁護士報酬の増額以外にもデメリットがあります。
調停期日が10日重ねられたケースでは、被相続人(亡くなった方)の死亡から解決まで2年近く要するため、相続税の申告を2回行うことになり、申告2回分の税理士報酬が必要となります(単純に2倍にはならないと思いますが)。また相続税の申告は、相続人を全員まとめて1つの会計事務所で行うのが通常ですが、紛争がこじれたケースでは別々の税理士に依頼することもしばしばで、その分、税理士報酬の負担額が単純計算で3倍になります。さらに相続人のあいだでの協調体制がないので、3人まとめて行うケースと比べて税理士の事務作業が大幅に増えてしまい、報酬の増額を求められる可能性もあります。しかも、相続人ごとに別々の申告書を税務署に提出した場合、財産評価も異なってくる可能性があるため、税務調査のきっかけをつくることになりがちです。
遺言書作成のメリット
遺言書を作成するメリットは、
- 費用が安い(上記のケースですと10倍近い開きがあります)
- 紛争をある程度回避でき相続手続が早く終わる、すなわち安い!早い!ことです。
最後にひと言。遺言書を作成すると「相続人が遺言書の内容に拘束される」と思われがちですが、これは誤解です。
遺言書が「法定相続人のみが財産を承継する」内容となっている場合、財産をどう分けるかを改めて相続人同士で話し合って決め直すことができます。遺言書は「相続人のあいだでの紛争を回避する」もので、「遺言書と異なった合意をすることを妨げる」ものではありません。話し合いがうまくいかなかったら、遺言書の内容に戻ればよいわけです。